〜Lily of the Asteroid・あなたの夢に私を保てる?〜
「うわー、酷い有り様ですねぇ先輩?」
「玲鈴も大分慣れたみたいだなぁ、朝顔に弄ばれかけてた時が嘘みたいだぁな」
「あ、あの時はホントに怖かったんですからね?」
ここはどこぞの小惑星にたたずむ研究施設。太陽系連邦警察から派遣された特捜課のティムと玲鈴は、旧火星正規軍部の次官と癒着していた軍事企業の証拠物件差し押さえ作戦に参加していた。
公安と法務局は合同で軍事企業本社に乗り込んだのだが、そこは鼻つまみ者の集まる特捜課。例によってろくな証拠も出てこなさそうな研究施設の捜査を命じられたようだ。
しかし事件体質の二人が捜査に赴く以上、何も起きない方が稀なこと。施設内のそこかしこに、女性型クローン兵の亡骸が転がっていた。
蛇足ではあるが、ティムと玲鈴は例によって町工場の粋を尽くしたボディアーマー(宇宙仕様リブリーザ付)に、ノーズカップで鼻まで覆われた防護ヘルメットを装着している。
『アイザックとかいう野郎は何でそこまで頑なに顔が見えるメットを拒んで、ガスマスクやら目しか見れないメットを愛でるのかわかんねー』
……と思うかもしれないが、作者はどうやら『防御力』と『目力』、そして『袋とじ感覚』にこだわっているようだ。
作者曰く、『顔が見えてるメットは防御力が低かろう』。
更に作者曰く、『目は口ほどにものを言う。目が語る表情は妄想を掻き立てる』
更に作者曰く、『メットオフはデレに等しい。隠れているからこそ余計に見たくなる』
そんな変態作者の妄想にマッチングする既存のキャラは、知る限りでは任〇堂の某宇宙戦士と、カプコ〇の某不良ライダー娘だけのようだ。
そんな与太話を作者の生き霊に取り憑かれた地の文がしている間に、ありふれた贈収賄事件で収まらないことを察したティムと玲鈴は施設の中枢・管理室に辿り着いていた。
「しっかしまぁ、どいつもこいつも同じ面(つら)かぁ?金太郎飴じゃあるまいし……」
「クローン兵の製造は国際条約で禁止されていたはずなのに……」
クローンを製造できる施設さえ確保すれば、容易かつ無尽蔵に兵力を賄えることになる。これでは戦争の火はいつまでも消えるはずはないのである。安全地帯に入りメットオフした二人は、メインコンピュータに残っていた製造マニュアルや研究データ等の重要な証拠を拾い上げ、本部に転送する作業に取り掛かる。研究施設に無数に転がるクローンのホトケ達の謎の解明と共に。
「えぇと、これとこれとこれとこれ……」
玲鈴がコンピュータに向かい、つつがなく証拠のデータを転送していると、監視カメラの映像を確認していたティムがあることに気が付く。
「おぉい玲鈴、ちょっとこれ見てくれ」
「これも送信して……先輩すぐ行きまぁす!!」
モニターの前に玲鈴を招いたティムは、自分が口寂しさから食べていた携帯食料を後輩に差し出しつつ、モニターの違和感について説明を始める。
「ほれ。玲鈴も食うかぁ、カロリ〇メイト?」
「あ、いただきます……って商品名が隠せてませんよっ!!」
「細かいことは気にすんな、それよりもコレだよコレ」
「どこですか……ん?顔が違う」
「いっぺん巻き戻してみっぞ……」
映像はクローン兵の性能テストを撮影したもので、『旧品』と『新作』の実戦が生々しく録画されていた。
実弾の盾にされる者、銃剣に貫かれる者、トラップのレーザー網に細切れにされる者、グレネードで爆散して肉塊と化した者……
「……先輩、やっぱ食欲無くしました」
「おぅ、無理すんな」
以前の酷い目を経て精神的に強くなった(自己比)玲鈴すら食欲減退するむごたらしい地獄絵図がそこには広がっていた。戦闘スーツとバブルヘルメットで武装した同じ顔の少女達は等しく、どこか死に顔に無情感が漂っていた。
「自分達と同じ命なのに……」
ぼそりと呟く玲鈴。その拳はわなわなと震え、体は次第に恐怖から怒りの感情に支配されつつあった。
「……ここでだ、例の違う顔が出てくると」
そして銃撃戦の後、クローン兵が横たわる通路を手を繋ぎ駆け抜ける二名の人物。性別は女性と思われ、クローン達とは異なるスーツとバブルヘルメットを着用している。
「この二人、何者だぁ?」
「どうも職員じゃあなさそうですね、スーツに会社のロゴが刻まれてないですし……」
何か手掛かりが無いものか……と映像を手当たり次第に見漁っていると、
「おっ!?こいつは……」
「間違いない、これですよ!!」
外の監視カメラが、研究施設に不時着する戦闘機を捉えていた。早速二人が墜落現場へと向かうと、そこにはぼろぼろの機体と、それに轢かれたり撥ね飛ばされたり潰されたりで、首があらぬ方向に曲がっていたり、体の部位が神隠しになったクローン兵の遺体がマネキンのように転がっていた。
機体番号を調べると、この戦闘機は現在の火星政府軍……火星革命連盟の所在であることがわかった。
さらにこの機体が配備されていた捕虜輸送艦は、女海賊ブラックローズに襲撃されて消息不明となっていたことが明らかとなった。
「やっとの思いでブラックローズから逃げたってのに、着いたところはクローン兵の研究施設……」
「二人はここから脱出を図ろうとして……」
「「そうか、あそこに向かったんだぁな(ですね)!!」」
そしてティム達が研究施設を離れ、バギーを走らせ向かった先は二人が乗ってきたパトシップを停めてある発着場。ここには職員の緊急脱出用に備えられた小型船が何艇か配備されている。
あの二人はここから小型船を使い脱出したに違いない。ティムと玲鈴はそう確信していた。
「……ちょ、先輩あれ!?」
「どしたぁ玲鈴……んがっ?!」
しかし、それは間違いだったと思い知らされる。その二人は発着場まで僅かというところまで来て、繋いだ手を離すことなく、眠るように息を引き取っていた。死因は酸素濃度の低下によるものと判断出来た。
二人の着用しているスーツはデザインが微妙に異なっている。一方は現火星政府軍のもの、もう一方は旧政府軍のものであった。
二人に合掌したティムと玲鈴が遺体を調べてみると、ボイスレコーダーに生前の会話が余すことなく記録されていた。
「……どうします?」
「ちびっと気は引けるけど、ここまで来て聞かない方が犯罪だぁ」
彼女らは恐る恐る、会話を再生してみることに……
『急いで早く、私達だけでも生き延びるのよ!!』
『待ってぇ、置いていかないで!?』
これは襲撃を受けた輸送艦から脱出する際のやり取りだろう。
『こうしていると……何だか駆け落ちしてるカップルみたいね』
『私達はきっと、こうなる宿命(さだめ)だったのよ。戦場で遭遇(であ)ってからずっと……どこまでも逃げましょう、私達を縛る全てのものから』
「せ、先輩、この二人……」
「何だかなぁ……お、もしや玲鈴も同じこと考えてた?」
もしや、この二人は互いにレズビアン同士で敵味方……兵士と捕虜の間柄にも関わらず【デキて】しまったのではないか?二人の脳裏にこんな憶測がよぎる。
『何なのこいつら!?同じ顔だしいきなり襲ってきた!!』
『どこかの研究施設みたい……緊急脱出設備があるはずよ、それを探しましょう』
それから暫くは鳴り止まない爆音や射撃音に幾つもの悲鳴が流れ続ける。
隣には愛する人が、守りたい人がいる。だから、二人がいく先に待つのは必ずや楽園に違いない。そしてそんな真実の愛を貫く二人を引き離す者は、何人(なんぴと)たりとも許しはしない。
二人は立ちはだかるクローン兵を悪鬼羅刹の如く駆逐し蹂躙して、やっとの思いで施設を抜け出したのだが、現実は非情である。脱出用小型船を目前にして、二人の酸素は仲良く底をついたのだ。
『はぁぐ、はぁぐ、神様、なんでもう少し待ってくれないの?』
『あふぅ、あふぅ……でも見て、こんな景色に抱かれて最期を迎えられる……』
『はぐっ、はぐっ……そうね、宇宙がこんなに綺麗だなんて、戦争してた時は気付かなかった……』
『ぁあぐ、ぁあぐ……私達……宇宙一の幸福者ね……』
愛し合う二人は手と手を取り合い、バブルヘルメットを触れさせて誓いの言葉を囁く。
『あなたの夢に私を保てる……?』
『勿論よ……』
『私を感じることが出来る……?私があなたを感じるように……』
『誓うわ、誓って……あなたの夢しか見ない……』
愛を確かめ合った二人は薄れ行く意識の中で地表のベッドに仲良く体を横たえて、
『逝きましょう……死出のた……び……へ』
『二人の楽……え……ん』
示し合わせたかのように同じタイミングで息を引き取った。
以上が記録されていた全てである。
全てを知ったティムと玲鈴は、置き場に困る感情を抱えたまま、その場に立ちつくしていた。
暫く目を瞑り腕組みをして考えたティムは考えた末、ひとつの結論を出した。
「……よし玲鈴、この二人を小型船にのせるぞ」
「先輩ならそう言うと思ってました……あたしは勿論賛成です!!」
このまま遺体を回収しては、身元が割れてしまう。元々彼女らは敵味方、まして同性愛は必ずしも世間に認められたわけではなく、これらを考慮すると二人が同じ墓で葬られる道理は無い。
ならばどこまでも遠くに……宇宙の果てにあるかもしれない二人だけの楽園まで……
ティムと玲鈴の粋な計らいによって二人を乗せた小型船はパトシップに牽引される。
「準備完了です!!」
「そんじゃお二人さん、末長くお幸せにっ!!」
牽引に使用したワイヤーを外してティムが小型船をゆっくりと蹴り出せば、二人を乗せたソレは大宇宙(おおうなばら)へのハネムーンへと繰り出していく。さらにそんな二人の門出を祝うように、花火のような閃光がパトシップの下に拡がった。
「ちょ、先輩!?研究施設が爆発炎上してますよ!!」
「あぁ、二人がちゃんと楽園を見つけられるように、景気よく花火でも打ち上げようと思って……な♪」
どこで仕掛けていたのか、ティムが用意した爆薬はつつがなく施設を破壊していく。花火のように見えたのは上空にいたからで、残存するクローン兵は粉々に砕け散ったりコンテナに圧し潰されたり、その身を骨になるまで焼き付くされたりで、結局は戦場に出ることなく、施設共々消滅した。
「はぁ……また始末書書かなきゃいけないんですね?」
「いいじゃねーかぁ、始末書の一枚や二枚……それよりせっかく小惑星帯まで来たんだ、火星まで行って名物『宇宙カジキマグロ』でも食べようや?」
何はともあれ、ティムのとばっちりで玲鈴の始末書が増えるのは確定である。
めでたいしめでたくもなし。
〜Lily of the Asteroid・了〜
作業用BGM
【m.e./underworld】
この曲の冒頭で、レズっ娘さん達が愛を確かめ合うシーンで使ったフレーズが出てきます。
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