【風を喰らう毒蛇】




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「……おい、お宅らどうした!?」

雑兵を粗方片付けて暇をもて余した吸血傭兵が目にしたのは、額を紅く染め上げて床に突っ伏している、マフィアの隠密達の姿だった。
幸いにも致命傷には至っておらず、意識もあるようで、彼女は二人に手持ちのペインキラー(鎮痛剤)を施してやる。

「うぐっ……客人の施しを受けるとは……」
「かはっ、見苦しい姿を晒してしまったようね……」

隠密達の名は東風(トンフォン)と西風(シィフォン)、幼い頃に戦火で身寄りを無くしたところをマフィア・九龍会に拾われ戦闘員として養成され、幾多の実戦を経て隠密工作員となった双子の姉妹である。

「なんたる不覚っ……」
「いっそ殺してくれ……」

目的を果たせぬまま組織におめおめ戻れない……と、吸血傭兵に自分たちの止めを刺してくれるよう願う双子。

「強がりも大概にしなよ、この世に未練タラタラなのがバレバレなのよ。そんなことより、何があったか教えてよ?ペインキラーまで射ってやったんだ、そんくらいしてくれてもバチは当たらないはずだけど?」

観念したかのように、二人は自分達の失態を語り始めた。

「部下を残して自分だけ逃げるとは、とんだ大将首だな」
「トン、隠し通路を見つけたわ。ナハルはここから逃げたみたいよ」

雑兵の亡骸だけが残されたナハルの部屋。ホトケの眼の先にある壁の裏には、秘密の通路が隠されていた。
双子が通路をたどるとその先に見えたのは、コツコツと足音を優雅に響かせている蛇女の姿。

ナハルが過去に奪った金品の中には、九龍会頭首に伝わる威光の象徴・九頭竜の玉璽が含まれていた。やくざ者にとって、面子を潰されることは何よりの屈辱である。
玉璽がナハルの手の中にあると分かった以上、彼女に死を以て償わせなければ組織の威信に関わるのだ。

「「ナハル=ニヴ、お覚悟!!」」

風の如くナハルに迫る双子。
しかし相手も無能ではない。
双子の背後からは飛行型警備ロボが数体現れ、ナハルの背中のガトリングの砲身は確実に双子を捉える……次の瞬間には横殴りの挟み撃ち。

「なめるなっ!!」
「このくらい!!」

だが、双子の戦闘力も雑兵とはワケが違う。
弾幕をまるで人混みを掻き分けるようにすり抜けるや、東風は警備ロボを撃ち落とし、西風はガトリングを破壊して無力化する。
その際にナハルにも弾は当てたのだが、強固なハードスーツは貫けない。

そこで双子は硬質合金でこしらえたサイ(東洋の刺突武器)を抜き、ナハルをハードスーツごと貫こうとした。

「「死ねぇーーーーーーーーっ!!」」

そして通路に響いたのは、ぶすり……ではなくカキンと乾いた金属音。

「うふふ、強者はそんな台詞は吐かなくってよ、ネズミちゃん達?」

「「ば、バカなっ!?」」

特殊なサイを以てしても、ハードスーツは圧倒的な防御力を見せつける。
そしてすぐさま双子の頭部を鷲掴みにするや、

「ふぎゃうっ!?」
「あべっ?!」

冷たい壁へと御構い無しに打ち付ける。

「あっははは、さぁ、いい声で哭きなさいな♪」

「あっ……ぐは!?」
「や、やめ……えべ?!」

ヘルメットは原型をとどめず、双子の額はみるみる紅く染まり行く。

「いけない、楽しみ過ぎると爆発に捲き込まれるわ……さてと、私は忙しいのよ。僅かな時間で悔いるのね、私に楯突いたことを」

こうして蛇女は去り、あとには二つの空っ風が残された……という次第である。

「そっか、分かった。こいつ借りるよ?」

吸血傭兵はサイを手に取り、自爆装置停止とナハルの脱出を阻むべく、監視制御室へと向かうのだった……





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