PSFサスペンス劇場・宙域のプロノイド【file1……遭遇】】
(BGM……女神/井上陽水)
「し、しぇんぴゃあぃ、あらひ、もう飲めないぃぃぃ……」
「あんだぁ玲鈴、だらしねぇなァ。それでもオラの相棒(バディ)かぁ?」
自動操縦でゲート内の位相差空間を航行する覆面パトシップの中、へべれけになったティムと泥酔ブルーな玲鈴が揺られている。
目的地までの暇潰しがてら、ゲームで負けた方が酒を呑むという賭けをしていた特捜課の婦警。ゲームの方では僅差で玲鈴が勝っていたものの、肝臓のタフネスが段違いだったティム。その結果、ティムを負かして酔い潰そうと意気込んでいた玲鈴は返り討ちになってしまったのである。
『こちらはゲート公団、金星までは48時間で到着する予定です。現在ゲート内の異常、ならびに速度規制はありません。引き続き快適な宇宙(うみ)の旅をお楽しみください……』
目的地へはもう少し暇が要りそうで、二人にはどこか余裕が窺える。
しかし、この先に想定外の事態が待ち受けていようとは、この時はまだ知る由もなかった……
(BGM・火曜サスペンス劇場のテーマ)
【SR女学院生連続殺人事件!!プロノイドの復讐?迫る怪生物、襲い来る殺戮兵器……孤立無援の施設内、特捜課の婦警達にも危機が!!学園本部の黒い過去が、事件の鍵を握る!?】
特殊財団法人・SR財団……
宇宙開拓黎明期を支え人命救助・防衛・敵対勢力の殲滅を生業としたSR隊が母体となっている。現在は防衛のエリート育成を目的としたSR学園の経営を主としており、学園系列の学校のOG・OBは軍隊や警察、警備会社、武器メーカー等に就職する者が多く、要職に就く人材も数多く排出している。
そんなSR財団が経営するSR学園附属SR女学院(通称・S女)では、毎年金星政府管轄内にある財団所有のスペースステーションNo.9で恒例の実戦演習合宿が執り行われているのだが、女生徒達を保護監督する外部の人間として、太陽系警察機構が部署の持ち回りで毎年何名か婦警を派遣していた。
〜48時間後、金星のゲート出入口にあるサービスエリア〜
「財団には【その気になれば星ひとつ掌握出来るだけの兵力を身につけた優秀極まりない教員集団】の皆さまがいらっしゃるんですよね?あたし達が事件でもないのに、わざわざ生徒さんの面倒を見る必要がいったいどこに……えぇっと、あたしは青椒肉絲定食にしようかな」
「その優秀な教員集団様とやらは、ほとんどが賞与を貰って特別休暇……だとさ。警察にもSRの卒業生は多いし、上役のオッサン連中も、財団に胡麻擂らなきゃあ天下り先が確保出来ねぇんだろうよ……そいじゃあオラ
は回鍋肉定食っと」
全身を包み込むスーツの上に特捜課のジャケットを羽織った二人がSAの食券売り場で愚痴をこぼしつつ列に並んでいると、
「ホントホント、お陰で非常勤登録してた私が出る羽目に……そうね、ワンタンメンかしら」
その後ろから話に割って入る女の声。
「あのぉ〜、失礼ですが……」
「誰だぁ、アンタ?」
シャチめいたスーツを着た黒髪ポニーテールの女は、婦警達に対しにこやかに微笑むと自らの名を名乗ってみせた。
「私はお二人の御世話を任されております、S女の事務員兼非常勤のアキラ=ナガミです。アキラって呼んで下さい、刑事さん」
料理を受け取った二人は、アキラと名乗る非常勤教師と同じテーブルを囲む。
「いくら非常勤登録しているとはいえ、私は潜水活動専門の教師なんですよ?折角非番だと思ったから旦那とガニメデのビーチリゾートに行こうとしてたのに……」
「お互い大変ですね……」
「ま、よろしく頼むァな」
食事を済ませた二人はアキラが乗る小型船にしばらく先導され、スペースステーションNo.9の発着所に到着した。
〜スペースステーションNo.9・機体発着所〜
「「「あ、ナガミ先生!!」」」
「流石は生徒会、出迎えとは感心感心♪」
発着所では生徒会長の枯山水万年青(かれさんすい おもと)と生活部長のエマ=ワトソン、美化部長のノーラ=マオが婦警達を出迎える。
「皆、こちらが特別講師のティモシェンコ=トーヤマさんと閠 玲鈴さんよ。刑事さんも不明な点があれば、この娘たちに遠慮なく聞いてくださいね。名門・S女の生徒会を務めるこの娘たちなら安心ですから」
「ティムって呼んでくれや♪」
「玲鈴です。頼りにしてますよ♪」
自分たちを信頼してくれた婦警達に、
「「「はい、よろしくお願いいたします!!」」」
爽やかな返事を返すのだった。
「中央ホールまでご案内します。さぁ、こちらへ」
〜スペースステーションNo.9・中央ホール〜
アキラから聞いた話によると、なんでも早速白兵戦の訓練があるようで、突撃鎮圧用ハードスーツを装着したティムと玲鈴は各々のヘルメットを抱え、水陸両用気密服姿のアキラに先導されて広々とした廊下を進む。
そしてその先にある大ホールでは、青色の気密服を着た数名の教員と、水色の気密服を着た何百人もの女生徒が集会を執り行っていた。
正規教員と女生徒達が着用しているのはSR学園の制服でもある通称パナソニックスーツと呼ばれているもので、肌着よりも快適な装着感と厳しい環境や激しい戦闘にも耐えうる実用性が特長で、一部の生徒はいろんな意味でスーツの虜になっているとかいないとか。
「今回の合宿には、太陽系警察機構・特捜課でも腕利きと評判の、こちらの刑事さんを特別講師にお招きしました。生徒の皆さん、拍手で迎えてください」
進行役の教師に呼ばれ、ティムと玲鈴は女生徒達の前に立って挨拶をした。
「オラが特捜課所属・巡査部長のティモシェンコ=トーヤマだぁ。非行は見つけ次第補導してやっから、覚悟しとくんだァな」
「同じく特捜課・巡査の閠 玲鈴です。皆さん、お手柔らかにお願いします♪」
集会らしくおざなりな拍手がホールに響く中、戦慄の針は確実にカウントダウンを始めていた……
「それでは各班ごとに改めて整列、これより白兵戦の実戦演習を開始する!!」
「「「はい!!」」」
竹刀を手にした体育会系な教師の号令で予め決められた班に分かれ、演習用に殺傷能力をセーブした武器を手に取る女生徒達。
「諸君には、これからステーション内の施設を使い……」
「先生、お待ち頂けますかしら?わたくしから提案がございますの」
演習を開始しようとしたその時、す……と細い手が挙がる。それはドリルのように巻かれたブロンズ色のツインテールが目を引く、いかにもタカビーなオーラが漂う女生徒のものだった。
「……う!?ど、どうしたハミルトン君?」
屈強そうな女教師にすら威圧感を与えるこの女生徒、名をパリス=ハミルトンと言う。
SR財団の創始者一族・ハミルトン家に産まれ、父である現・財団理事長に蝶よ花よと育てられてきた彼女。一族の権力を傘にした、宇宙は自分の為に回っていると勘違いしているかのような我儘と無茶ぶりで、多くの人々を振り回し、本人に聴こえないところで【わがままパリス】と陰口を叩かれているのだ。
「特捜課の刑事さん……でしたわよね?お噂は耳にしておりますわ」
「は、はぁ……それはどうも……」
「ふぁ〜あ、オラ達もいつの間にか有名人かぁ?」
謙遜している玲鈴、そして欠伸混じりに財団令嬢を横目にみるティム。
「折角ですから……わたくしが代表を務める隊と、ひとつお手合わせして頂けませんこと?多忙なお時間をわざわざ割いていらしていただいたのですし、わたくし達も貴女方に大いに学ばせていただきたいものですわ」
(また始まったよ……)
(わがままパリスの接待演習が……)
パリスの突如の提案にざわつきだす女生徒達。実は彼女、親の権力をちらつかせて特別講師に演習をふっかけ、負けそうになると出世や金一封等を餌にどう足掻いても自分が勝てる出来レースを仕込み、それに勝つことで悦に浸る悪癖があったのだ。
巻き込まれる隊の女生徒達は勿論、応援を要求されるその他女生徒達にとっても迷惑千万なのは間違いないし、合宿のスケジュールにも支障がでるため教師達も頭を抱えている。
しかし、パリスのバックにはSR財団がいる。教師達も彼女をたしなめようものなら、如何に教鞭を振るう者とはいえ所詮は雇われの身。出世はおろか暇を出されることにもなりかねない。
「お二方……すまないが、頼まれてはもらえないか?」
「お願いします!!私たち、まだクビになりたくありません!?」
教師達は婦警にこの状況の収拾を嘆願する。
「ちょっとパリスさん、演習の場を何だと思って……」
「いいじゃない枯山水さん、先生方もあぁ言ってらしてるんだし」
万年青の言葉にも聞く耳持たぬ、といった態度のわがままパリス。したらば、この状況を楽しむかのようにティムは、
「しゃーないな、やってやるかぁ。な、玲鈴?」
「ちょ、先輩!?」
困惑気味な玲鈴をよそに、二つ返事で受けたのだった。
「いやはや、こりゃあまあ可愛がり甲斐のありそうな嬢ちゃんだなぁ、ハハハ」
なんとも余裕綽々、お前なんぞ何とも思っちゃいないといった風なティム、
「あらあら、随分な言い方ですのね。私の御父様は警察にも顔が利きますのよ、貴女も今のうちに私に恩を売っておいた方が聡明だとは思わなくて?」
赤鬼を前にしても尚も高飛車な態度を崩さないパリス、
「生憎だなぁ、オラは出世に興味ないんだぁ。もしオラが勝ったら……ひとつだけ言うこと聞いてもらうぞぉ」
「貴女みたいな人は始めてですわね……そうだわ、私が勝った時には、貴女に合宿中の雑用係をお任せしましょうかしら♪」
殺気を漂わせながら、にこやかに握手を交わす二人。
この後、ヘルメットを装着した婦警達とパリス、そしてパリスの腰巾着である取り巻き三連星はフィールドに散開し、
「では……始めてくださぁい!!」
教師の合図で、実戦演習対決の火蓋が切って落とされた。
(BGM……フィール・ライトfeat.ミスティカル/マーク・ロンソン)
「こちとら社会人なんだぜ、大人の世界の厳しさを叩き込んでやらにゃあな」
弾む口調でティムが玲鈴に手渡したのは、ジャミング機能付催涙煙幕発生装置だった。この捕縛道具には2つの目的がある。
ひとつは、武装した犯人の視界を奪いガスで弱体化させて素早く鎮圧する目的。
もうひとつは、犯人や犯人グループが気密服やアーマーなどで武装して、ガスの効果が期待出来ない状況下においても、装置本体が煙幕を張ると同時に発する妨害電波により、犯人同士の通信や敵味方の位置確認機能に一時的に障害を与える目的だ。
「うわぁ〜、大人げなくないですか先輩?」
「構うこタァ無ぇや、あぁいう世間知らずのお嬢さんには、誰かがガツーンとぶちかましてやらなきゃいけねぇンだ♪そら、いくぞ!!」
一方その頃、パリス達はといえば……
「あの刑事達、仕掛けてこないわね……」
「今回も私が囮役だなんて……」
「いっつもパリスばかりオイシイところを……」
取り巻き三連星のひとりが見張り兼囮役として通路に立ち、あとの二名は壁を背に敵を待ち構える。
ちなみに彼女らは会話の順に、四菱重工社長令嬢の四菱クレハ、木星領エウロパ長官の娘・アンジョリーナ=ジェリー、金星政界の大物議員の孫、アニタ=アルバラッド。
「……あら?いま何か聴こえたような」
「「「め、滅相もございませんわパリスさんの悪口なんか!?」」」
「あらそう……まぁ良くってよ。皆さん、あのノンキャリ刑事に私の恐ろしさを存分に見せて差し上げなさぁい♪」
各々、中々の名家に産まれているのだが、親や祖父がSR財団に頭が上がらない為、子供同士でも必然的にそのようなピラミッド的構図になってしまっている。
「勝手なことばっかり……ん?」
パリスへの陰口を一旦引っ込めた囮役のアニタは、左足のブーツに何かが『こつり』と当たる感触を覚えた。
野球ボールほどの大きさをしたソレは、2つに割れると同時に眩い閃光と濃い煙幕を瞬時に溢れさせたではないか。
「うわ、しまっ……」
「う、まぶしっ……」
「な、何がぁ……」
身構える間もなく煙に包まれる取り巻き三連星。
「な、なんですの!?何が……」
離れた場所にいたパリスも、この状況に慌てた様子でアサルトライフルを煙幕に向け構える。
「ひっ……!?」
その直後、その中から鈍い音が三発響き、さらにドサドサと何かが倒れる音がする。
「誰!?返事をなさい!!」
パリスは銃口を煙幕の人影に向け、引き金を……
「Freeze,and Hold up!!これでいいかぁ?」
「ひ、ひぃっ!?」
引こうとした刹那、彼女の首筋に冷たい感触。思わず振り向くと、そこにいたのは片方の十手ブレードをパリスの首に突きつけた、赤が基調色のハードスーツ姿のティム。重厚なヘルメットのシールド越し、僅かに透ける目元は『ドヤァ』と言わんばかりだ。
「正面突破だけが突撃じゃあないんですよ?隠密行動だって出来るんですから」
そして煙の中からゆらりと現れたのは、トンファーを手にした青が基調色のハードスーツ姿の玲鈴。彼女の足元には、取り巻き三連星が仲良く気を失っていた。
「ま、待って!!貴女方、本当に出世に興味はございませんの!?このままじゃ私の面子が丸潰れ、勝たせていただければ御父様に頼んでそれぞれ2階級特進……」
プライドだけは百人前なわがままパリス。
「おあいにく様、特捜課自体が出世コースから外れた獣道ですから」
「今の興味は……罰ゲームだけだぁ!!てなわけでお前、ホールに戻るぞ」
しかし、そこは毎日が厄介者扱いな特捜課の婦警達。出世などハナから諦めているのだ。
「え、そんな、いやだ、離して!?」
「勝負はシビアにいくのが大人ってもんさ♪」
パリスはティムに軽々と担がれ、大ホールへと連行されていく。
婦警達によりあっさり鎮圧されたパリス達の一部始終は大ホールのスクリーンにデカデカと映し出され、戻ってきた婦警達を出迎える女生徒とアキラを含む教師は、皆一様に目が点になり、開いた口を塞ぐのをすっかり忘れている。
「お仕置きと言えば……紅葉狩りだなァ」
「ちょ、待って、痛いのいや……」
そして万座の前でティムは右手で平手を作ると、左腕で抱えていたパリスの無防備な臀部へと、情け容赦なく張り手を叩き込んで見せた。
「ひぎっ…………ィィイイ!?!?」
大ホールに響くは力士がテッポウを壁に打つかの如き鈍い音。衝撃と共にじんわりとパリスの臀部が熱を帯び、床に崩れ落ちると人目もはばからずに、もんどりうって泣きじゃくり、激痛を和らげるのに労力を総動員している。
「いい痛いィィイイ、御父様にも打たれたことないのに!?」
「そっか、紅葉狩りはヴァージンか。イイ経験したな」
その場の誰もが、心でティムに『願わくばしたくねーよ』とツッコンだのはさておき、
「大人舐めてっから痛い目見るんだぁ。さ、先生達とみんなに謝りな!!もう一枚紅葉狩りしたいんなら話は別……」
「やります、やるからもうお尻は叩かないで!?」
ふらふらと立ち上がるも、臀部の激痛の影響でへっぴり腰なパリスは一同のほうに顔を向け……
「頭(こうべ)を垂れるンだ、深々と!!」
「ど、どうもすみま…………ぎゅう」
頭を下げると同時に恥ずかしさが一気にこみ上げ、耐えきれずに気絶してしまった。この後パリスは医務室の回復カプセルに放り込まれ、演習の授業はつつがなく執り行われたとか。
BGM……banstyle / sappys curry/アンダーワールド
〜その夜〜
「あっはっはっは!!見たかよ、あのわがままパリスの顔!!」
「いい気味よね〜、理事長の娘だからって我が物顔でさ〜」
正規勤務教師の宿直室では、大人達が実戦演習での出来事を肴に酒盛りに興じていた。
「パリスさんがS女に入ってから、生徒も先生方も、みんなやりにくそうだったしね……あぁ、勿論非常勤の私もね」
「んもぅ、明日もあるのに飲み過ぎててイイんですかぁ?」
「固いこと言うな玲鈴、センコーじゃあるめぇし」
一方、パリス専用の部屋では……
「あぁ痛痛痛……あのメスゴリラ、いつか必ず目にもの見せて差し上げますわ!!ちょっと貴女、もっとしっかりマッサージなさい!!」
「ひゃう、す、すみません……」
臀部に受けた張り手が痣になったらしく、痛みに眉をしかめながら、別の女生徒のマッサージを受けている。
「マッサージの後はベッドの用意とシャワールームのお掃除、ついでに部屋のおトイレも。よろしくて?」
「は、はぃ……」
まるで使用人か丁稚(でっち)のような扱いを受けている黒肌の彼女の名はミシェル=カリウキ=オチョワ。
成績優秀な特待生なのだが、お世辞にも裕福とは言えない出路のせいで、パリスに『友達』と言う名の主従関係を結ばされてしまった。
パリスとは別の班で、相部屋でもないにも関わらず、彼女に呼ばれてこの部屋にいる。
それでもミシェルは、パリスの自分に対するわがままにも嫌な顔ひとつせず、せっせと言われるがままに動いていた。
「明日の実習の備品、これで全部よね?」
「これを収めればあと三往復だわ」
「明日も早いし、早く片付けて寝ましょう」
生徒会の三人組は、明日の実習に必要な備品を、ステーション奥の倉庫から取り出す作業に追われていた。
取り巻き三連星も、そしてその他大勢の女生徒達も、それぞれの時間を過ごしていた。
もう間もなく役者が選び出され、地獄の一丁目へと誘われようとは、まだ誰も知らぬままに……
〜さらに夜が更けて……〜
「Zzz……ん、あんだよ五月蝿いなぁ。玲鈴、ちょっちゅ見てこいや」
「むにゃあ……なんであたしが?」
酒盛りの果てに宿直室で眠りこけていたティムと玲鈴は、ドアから聴こえるブザー音で目を覚ました。
カメラに映っていたのは、パナスー姿の生徒会三人組。まだ夜明けを迎えるには暇があり余る時間帯にどうしたのやら……と、取るものも取り敢えず、二人は万年青から事情を聞くことに。
「あ、刑事さん!!実は夜中にトイレに行った帰りに、黒づくめの怪しい人影を目撃したんです」
「「黒づくめの人影?」」
こういった合宿ではありがちなシチュエーションではあるものの、S女の生徒を代表する生徒会長の万年青は至って正気なようで、ありがちな勘違いとも言い難い状況である。
「ひょっとしたら、生徒の誰かがふざけているのかもしれません。管理室でカメラの映像を確認したいのですが」
管理室には生徒達だけでは入れない規則になっている。セキュリティをパス出来るキーを持つのは教師だけだ。
「ふわわ……ん?」
「お、丁度いいや。アキラもちょっちゅ付き合え」
タイミング良く起きてきたアキラも加えた大人三人。婦警達はハードスーツに、アキラは気密服にさぱっと着替え、生徒会三人組と共に管理室へと向かう。
アキラの持つカードキーで両開きの扉が開くと、万年青はコンピュータの前に着座し、怪しい人影を目撃したとされる時間帯のカメラの映像をチェックし始めた。
「えぇと、このカメラには映っていないか……」
他の面々もモニターの映像を隅々まで調べていた……
「うっ……これは!?」
すると、万年青の眼前のコンピュータの制御が突如として効かなくなる。モニター上の画像は砂がこぼれるようにサラサラと流れ落ちて真っ暗に。
「故障なの!?それともウィルス……」
タッチパネルも機能せず、キーボードを叩く万年青だが、コンピュータはウンともスンとも言わない。
「ん?今、あそこに黒づくめの奴が!!」
「ヘルメットもシールドもスーツも、全部真っ黒!!」
「「「「えっ!?」」」」
すると、外で見張りをしていたエマとノーラが、遠くを横切る不審人物を見たようだ。
「ゆし、とりまショッぴくぞ!!」
「はいっ、先輩!!」
「非常勤でも教師、見過ごせないんだから!!」
「「「先生、私達もお供します!!」」」
コンピュータが使えない以上、六人は不審人物が逃走したとおぼしき通路を追いかけていくしかない……したらば、今度は通気孔から白いガスのようなものがゆっくりと流れ出してきた。
「おっと、コイツぁ気化麻酔だ!!」
「皆さん、ガスを吸う前に気密性を高めてください!!」
ガスを感知した各々のスーツの計器からは、気密性を高めるようにアラームが鳴っている。六人は直ちにヘルメットから外気を遮断し、バックパックの濃縮エアからの循環呼吸に切り替え、不審人物捜索を再開した。しかし、
「あ、あ、あうあう、そ、そ、外ぉ!?」
強化ガラス越しに広がる宇宙空間を指差し、アキラが急に取り乱しだした。何事かと思い一同が外を見たらば、
「な、なんじゃありゃあ!?」
「「「「部屋が、射出されてる!?」」」」
目に飛び込んできたのは、衝撃の光景。万が一の事態に備えて脱出用小型船も兼ねた女生徒達の部屋が、次から次へとステーションから切り離されて、金星の方向に飛び去っていく。教師達の部屋も切り離されて、学園関係者の部屋で残されたのはパリスの班がいる部屋のみとなった。
六人はパリス達の部屋に走り、彼女達の安否を確認する。
「パリスさん、パリスさん!!」
「あ、会長……それにアキラ先生と刑事さん……」
「万年青さん、これは何事ですの!?」
スライドしたドアからも白い霧が漏れだす。どうやら各部屋にまでガスは充満しているらしい。扉の前にいたのはパリスとミシェルで、取り巻き三連星の姿が見られない。
「だらしが御座いませんわね、非常時だというのに……」
苛立ちを隠さないパリス。すると、クレハとアニタがバタバタと自分の部屋から飛び出してきた。
「ちょっと、遅いんじゃなくって!?」
「す、すみませんパリスさん!!ガスが充満してて……」
「あれ?アンジョリーナさんがいないみたいだけど」
パリスは頭に血を上らせて怒鳴りちらしているが、まだ取り巻きはまだ二連星しか揃っていない。
「アンジョリーナさん、ちょっと、アンジョリーナさん!?」
痺れを切らしたわがままパリス、アンジョリーナの部屋の呼び鈴を鳴らし続けながらまくし立てる。
「貴女、S女の生徒のくせに危機管理能力が足りていないんじゃありませんの!?」
そして理事長令嬢権限で預かっていたマスターキーを取り出し、アンジョリーナの部屋の鍵を開けたのだ。
「あら、準備万端じゃあありませんの……ん?」
すると、扉の先の暗がりの部屋で、スーツにヘルメット姿のアンジョリーナが……
「いっ、いやぁアアぁあァーーーーーーーーーーーー!!!??!!?」
腹部や胸部をメッタ刺しにされて血まみれの、変わり果てた姿で、パリスに倒れこんできたではないか。
かん高い叫び声に尋常でない事態を予感した他の者も一斉に彼女のもとに駆け寄り、残酷な現実を目の当たりにした。
「「「うっ……」」」
生徒会三人組は言葉に詰まり、
「「イヤぁーーーーーーーーっ!?!?」」
クレハとアニタは恐怖のあまり抱き合いながら泣き崩れ、
「し、死んでる……の?」
アキラはなんとか落ち着き払おうとするも震えが止まらない。
「……だめです、亡くなってます」
脈も無く、呼吸の気配も無い。瞳孔も開いている。アンジョリーナの死亡を確認することしか、玲鈴には出来なかった。
「彼女を殺った犯人、どうやら通気孔から逃げたみたいだナァ。ご丁寧に、名前まで告げていきやがった」
部屋の天井にある通気孔の枠が外れていた。犯人はここを使って出入りした可能性が濃厚だ。だが、ティムがそれ以上に気にしているのは、壁に書かれていた犯人のものとおぼしき血文字。
「【PLNOID(プロノイド)】……」
to be continued...
【人物紹介】
●ティモシェンコ=トーヤマ
通称はティム。赤鬼とも呼ばれる特捜課の刑事。お気楽者ではあるが、刑事の勘と戦闘能力は警察でも指折りと言われている。
●閠 玲鈴(ぎょく れいりん)
ティムの後輩にして頼れる相棒(バディ)。ティムに振り回されて厄介事によく巻き込まれる。気立てが良い熱血刑事。ジークンドー使いの一面も持つ。
◆アキラ=ナガミ
乾さん家のアキラさん。ダンナで水棲人の優クンと爆発しまくった結果、不老長寿の体に。素性を隠して働いている、S女の事務員兼非常勤教師。
◆枯山水万年青(かれさんすい おもと)
成績トップを誇るS女の生徒会長。気配りも出来る人格者。
◆エマ=ワトソン
生徒会の生活部長。万年青、ノーラとは幼馴染み。
◆ノーラ=マオ
生徒会の美化部長。万年青、エマとは幼馴染み。
◆パリス=ハミルトン
わがままパリスと揶揄される、SR財団の理事長令嬢。親の権力を傘にS女ではやりたい放題。
◆ミシェル=カリウキ=オチョワ
成績優秀な特待生。パリスに使用人のような扱いを受けている。引っ込み思案だが、芯の強い娘。
◆四菱クレハ(よつびし くれは)
四菱重工の社長令嬢で、パリスの取り巻き三連星の一人。
◆アニタ=アルバラッド
祖父が金星政界の大物。パリスの取り巻き三連星の一人。
◆アンジョリーナ=ジェリー
木星領エウロパの長官令嬢。パリスの取り巻き三連星の一人だが、名前が長すぎたため早速殺された。
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