その少女はまだ17歳だった。 通学していた学院の高等部パイロット科で優秀な成績を収めていた彼女は、時局の求めに応じて出征し、テリアス星宙域の激戦にその身を投じた。 乱戦を勝ち抜き、戦区の敵は撃退したものの、味方もまた漸減し、付近には誰もいなかった。 損傷した自機の補修を行うため、宇宙空間に出た彼女の眼に、彼我の艦隊主力が接敵し鎬を削る光景が展開していた。 その有様を呆然と眺める彼女は突然はじき飛ばされ、機体から離れていく。ヘルメット内に生命維持アラートが鳴った。 まだ充分あるはずのエア残量はすべて消え去っていた。 高速で飛来した小さな破片が彼女のバックパックを貫いて破壊していたのだ。 急激な減圧に対処してヘルメットとバックパックの接続は絶たれたが、ヘルメット内部の予備酸素はわずか5分。 バックパックのバーニアももはや動かず、虚空に漂いながら彼女にできることはもはやほとんどなかった。 パイロットスーツは無傷のまま気密は保たれていたが、残る5分で彼女は何を思ったろうか。 バブルシールドの内部の気体に含まれる酸素は無情に減少し、少女の必死の呼吸も徒労となった。 テリアス攻防のクライマックスを背景に、一人の少女の苦悶が始まった。 白いパイロットスーツに包まれた身体を悶えさせ、青色のグローブの両手で首元の接続リングを握り締める。 そして同じく青色のブーツを履いた両足を、何度も宙に蹴りだして、最後の時から逃れようとあがいていた。 少女の死苦はさほど長くはなかったが、本人にとっては非情な時間だった。 恐怖から生への渇望と絶望。 そして忘却の時が少女に訪れた。 彼女の四肢は動きを止め、ケイレンを経てやがて静かになった。 恐れにゆがんだその表情も感情を表す事をやめ、静けさを湛えた半目に遠方の戦火が写っていた。 息絶えた少女は虚空に漂っていた。 その身体は気密スーツにいまだ守られていたが、保温用の電源が落ちると絶対零度の宇宙に侵され、次第に固く凍りついていった。 戦場処理作業は膨大で、行方不明の学徒兵まで追及されることはなかった。 |