灼熱の訓練 彼女の名前は上田奈央。 18歳。高校を卒業後、特殊作業を請け負う会社に作業員として入社し、訓練を受けている。 この仕事は、細菌を初め、放射線、有毒ガスなど、様々な人体に害のあるものに対する専門知識を習得し、 それぞれの環境に対応した防護服を身に着けて依頼された作業を行うという仕事だ。 今回使用される訓練室は、工場や発電所の建屋内などの入り組んだ通路などを再現している。 強力な空調で、体育館並みの広さの訓練室内を湿度を0%から99%、 気温を45℃から-30℃まで制御することが可能なである。この施設はこの訓練の他に、 防護服の耐久テスト、着用テスト、機材の動作、及び耐久テスト等にも利用される。 今回の訓練は、高温多湿の環境での作業を想定し、15kgの機材と簡易化学防護服、 ガスマスクを着用した状態で、気温40℃、湿度98%の訓練室内を2時間あるき続けるというものだ。 リブリーザや酸素ボンベによる空気供給と異なり、ガスマスクは吸気缶と呼ばれるフィルターを通して、 吸気缶内の触媒によって空気をろ過し、マスク内に空気が入る。 しかし湿度が高いと水蒸気がフィルターにつまり、吸気の抵抗が大きくなって息苦しくなる。 プリーツマスクなどを水に濡らすと呼吸できなくなるように、湿度が高いとガスマスクでは呼吸が困難となるため、 湿度が高い環境に行く際は酸素ボンベなどからマスクへ空気を供給できる装備を着用する。 湿度98%の中で2時間もガスマスクを着用し続けなければならないという過酷な条件に加え、 気温は40℃。ビニールのカッパとゴム手袋と長靴を着用してサウナに入るようなもので、 着用者は防護服中で蒸されるようなもの。全身から吹き出した大量の汗が長靴や手袋の中に貯まり、 歩く度にグチャグチャと音をたてる。息苦しさ、暑さ、防護服の不快感で、 だんだんと意識が朦朧とし、浅い口呼吸を繰り返す。 「はぁー…はぁー…はぁー…ングッ…んはぁ…はぁー…」 口が渇いて口臭がキツくなり、マスクの内側に飛んだ唾液の臭いでマスク内は鼻呼吸できない程の臭いだ。 「マスクくっさ…まじむり…もう嫌ぁ…」 |