冬の夜空




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「あれがシリウス。その少し左上がプロキオン。そっと右に行くとペテルギウス。冬の大三角ね」
 3日前の雨と今日の昼過ぎまで吹いた季節風のおかげで、山の上から見渡す空には、いつもよりハッキリと、数多くの星たちが煌いていた。しんと静まった空気だけが鼓膜を震わせるのか、音にならない静寂に包まれている。

「冬の大六角形の星、覚えたよ!」凛が言う。
「おぉ、そうか! カペラ、アルデバラン……」私が口ずさむと、
「リゲル、シリウス、プロキオン、ボルックス!」彼女が続ける。
「どの星がカペラ?」
「う……、えっとねぇ……、…………どれ?」

 街の中から国道を40分余りバイクを走らせ、短いトンネルで峠を一つ越えたところにある標高200m足らずの山の頂近く、今は枯れ草が広がるだけの空き地からは、私たちの住む街明かりも見え隠れして光の影響を余り受けることなく、星の観察ができる。
 いつだったか、ツーリングの帰りにこの峠に差し掛かったとき、ふと視界に飛び込んできたわき道。何かあるような予感がして入り込んでみたら、こんな素敵な「プラネタリウム」があった。
 以来、彼女……凛(りん)とは、しばしばこの場所までタンデムし、季節ごとに変わる星空を見上げながら、他愛ない話や将来のことなどを語り合うのが好きになっていた。

 少しだけ湿り気を残す土の上に腰を下ろし、互いに背中でもたれ合いながら夜空を見上げる。寒いからヘルメットも手袋も、身に着けたままだ。そんな状態で1時間余り、今夜も色々なことを話すことができた。二人はいつも一緒にいるのに、ここへ来ると街中では口にできないようなことまで話せるから、不思議だ。

 予報では、今夜は氷点下までは下がらないとなってはいたが、そろそろ日付が変わる時間。冷え込んでくると、バイクでは万一の凍結が怖い。
「そろそろ、帰ろうか……」私が言う。
「……もう少しだけ、ここにいたい」
 いつもより静かな声で、凛が呟く。
「どうして?」
「冴瑛(さえ)の身体……温かいから。もっと感じていたいから!」

 ライダースーツ越しに、凛の体温は伝わっていた。
 きっと冷え切っているスーツの表面なのに、彼女と私の2着の「壁」があるのに、不思議と彼女の体温が直に私の体温と交じり合っていた。彼女もきっとそうなのだろう。
 地面に置いた彼女の手の上に、自分の手を被せる。スーツと同じく、手袋を通しても温かさがすぐに伝わってくる。


「木枯しとだえて さゆる空より……」
 凛が口ずさみ始める。私たちの好きな『冬の星座』だ。
「地上に降りしく 奇しき光よ……」私も歌う。

 歌い終えると、再び静けさが二人を包み込む。

「冴瑛……ヘルメット脱いで……」
「うん……」
 凛の真意をすぐに察して、ヘルメットを脱ぐ。途端に周りの冷たい空気が肌を刺激する。
「温かいの、冴瑛の身体の中にも…………」
「うん…………」
 そっと目を閉じ、そして唇を重ねる。濃厚な彼女の唾液が私の口の中に広がり、そして喉を通って体の中に落ちて行く。

 愛機に火を入れる。暖気の間、もう一度唇を重ねる。
「さ、家までひとっ走り、行くよ!」
「うん」
 後席の凛が私の腰に手を回し、胸を押し付けるようにしがみついてくる。
「こら、そんなにしがみつかない!」
「だって……」
「帰ったら、一緒にお風呂で温まろう」
「うん」

 ヘルメットのシールドを下ろし、ゆっくりとスロットルを回す。スーツを通じても風の冷たさが分かるが、後席の彼女のおかげで寒さは感じない。
 街明かりが見える。その上に、西に大きく傾き始めたオリオンが見える。
 宇宙の季節は、もう春の支度を始めていた。


『冬の星座』

【作詞】堀内 敬三
【作曲】William S. Hays,

1.木枯しとだえて さゆる空より
  地上に降りしく 奇(くす)しき光よ
  ものみないこえる しじまの中に
  きらめき揺れつつ 星座はめぐる

2.ほのぼの明かりて 流るる銀河
  オリオン舞い立ち スバルはさざめく
  無窮をゆびさす 北斗の針と
  きらめき揺れつつ 星座はめぐる

(昭和22年 中等音楽)






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