「Fの断章」06



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彼女は静かに佇んで、両の腕を海面に向かって伸ばしていた。
驚いたように眸を見開いたままで、表情に苦悶の色は見えなかった。
生きているかのように見えたけれど、行方不明となってから丸1日が過ぎて、
2本のボンベに酸素が残っているはずもない。
手を伸ばし、彼女の肩に触れるとその身体はゆっくりと傾いて、
安堵したかのように海底に身を横たえた。
まるで発見されるのを待っていたかのように。
沸騰する苛性ソーダに咽喉を灼かれたり酸欠に苦しむことが無く、
おそらくは眠るように意識を失ったであろうことが、わずかばかりの救いではあったろうか……


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リブリーザの利点は気泡を排出しないことによる隠密性ですが、それが仇となる場合があったと言います。
命綱や浮標(ブイ)を失ってしまうと海上からはダイバーの位置を把握することが出来なくなってしまうのです。
自力で浮上し海上で救助を待つことが出来れば助かる道もあったのかも知れませんが、
水底で行方を絶ったままの訓練生も居たと聞きます。

※ この絵はフィクションです。かつて存在した器材装備等に基づいておりますが、実在の人物・艦隊・事件とは一切関係ありません。








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