(ホントだ。マーナのここ、蜜がいっぱいあふれてる) 手袋に包まれたナミエの指が優しく押し広げると、鱗の間にひとすじ、薄紅色のスリットから、薄白く半透明な粘液の泉が湧き出している。スリットの両側を撫で、粘液をまぶしては泉の中心を指で刺激する。 今度はマーナが身をのけぞらせ、甘い吐息ならぬ水を吐き出した。きゅるっ、きゅりりりりいっ。喉の奥からあふれる、イルカにも似た高音は人魚が水中であげるあえぎ声。 ひくひく、水底に棲む軟体生物めいて粘膜が刺激を求め、銀鱗が光を弾いて魚体がくねる。 (ナミエぇ、お願い、ゆび、入れて…) マーナの懇願に、ゆっくりと蜜壺に指を差し入れる。引き抜き、また奥まで差し入れ、柔らかな洞窟(ケーブ)の敏感な場所を探る。水の中でなければ愛液が音をたて、糸を引いてしたたるかも知れない。 それほどに人魚は快楽に溺れている。求め合う二人がひとつになることを望んでも、雌性同志では器具でも使わない限り貫き合うことは不可能だが、それ以前にナミエの肉体はガラスの〈金魚鉢〉と分厚いゴムの潜水服に封じ込められ、 口づけはおろか、直に触れ合って敏感な場所に指を這わせることすら叶わない。それでも。 (ねえマーナ、すごいぬるぬるしてるの、手袋越しでもわかるよ…) (あっ …あっ んんっ) マーナが身を震わせて指を締め付けると、同時にナミエも〈金魚鉢〉の中であえぐ。 (ああぁぁっ マーナが感じてるのが、あたしの〈中〉に入ってくる…!) (感覚共鳴してるもの。ナミエの指、すごく上手だから んっ……) (あそこがヒクってしてる。自分でいじってるみたいで、でも、いつもよりもっと感じるのぉ) (いつも自分でしてるんだ? ナミエ、いやらしい子なんだね) (マーナだって、こんな、指をギュってくわえこんでるのにぃっ) (あはぁっ 中が、ゆび、いっぱいなの…… もっと、奥まで、かき回してぇ……!) はぁはぁと〈金魚鉢〉の中で荒い息を吐くナミエと、水の中で口を大きく開け、白く豊かな双丘を上下させ、甲高い声で啼くマーナ。長い髪が逆立ち揺らめき、うねる体に追従する。 ヒトと人魚の官能は螺旋を描いて絡み合い、追い掛け合う二頭のイルカめいて寄り添いながら、急速に頂点に向かった。 (んっ あっ) (あっ) (いっ 気持っ ち いいいいっ) ((いっしょ、に)) ((一緒にぃぃっ)) ((いっちゃ)) ((いっちゃう)) (((( あああああああああああああーーーーーーーっ )))) 砂浜に打ち上げられた魚のように身を震わせて。潜水服を着た人間の少女と翠髪の人魚は抱き合ったまま海底に倒れ伏す。昇り詰め、快感の甘い余韻にひたる異種族の娘たちを、水面越しに差し込む淡い光の網が包んでいた。 (了) *2014年12月(書きおろし) |