「舞衣と冬華」




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「(フーッ) A103、カタパルトデッキに上がります」

決して広くはない複座式コクピットの中、
アームドスーツに身を固めた津々美舞衣(つつみ まい)は
搭乗機である機動兵器"アクトレス"の発艦シークエンスをこなしていく。
身を固めているというよりはスーツに着られていると言った方が
正しい表現に思えるくらい、まだ中学3年生の彼女は小柄だった。

「(スフッ、フー) "コスモス"より"ホワイトウイング"へ。機体各部オールクリア」

淡々した口調で前に座るコールサイン"ホワイトウイング"こと
山咲冬華(やまさき とうか)に作業進捗を報告する。
ちなみに"コスモス"が舞衣のコールサインである。

「"ホワイトウイング"了解。発艦カウントダウンまで120」

冬華は舞衣の3歳年上で操縦及び戦闘を主に担当する。
高校2年生にして既に地球外生命体の迎撃任務を行う"アームドパトロール"に
おいて輝かしい戦果を挙げているエースパイロットだ。
対してルーキーの舞衣の役目は基本的にはナビゲーションである。

「舞衣?」

「えっ?あ、はい?」

冬華が不意にコールサインでなく名前で呼びかけてきたので舞衣は少し戸惑う。

「大丈夫?なんか息上がってない?」

アームドスーツのバックパックがシートに固定されているにも関わらず、
冬華は身をよじって舞衣のほうを振り向いて尋ねる。
ヘルメットのバイザーの奥に見える瞳がやや心配げだ。

「(コフッ)だ、大丈夫ですよ?全然平気です」

対する舞衣はナビゲーションに専念するためにヘルメットのシールドを
全閉してヘッドアップディスプレイ("のっぺらぼう"と呼ばれている)を使用している状態だったが、
わたわたとする身体の仕草から冬華は後輩が目を白黒させているのを容易に見て取る。

「ほんとに?まだ二回目の実戦だから、がんばりすぎないでね。
こないだみたいにやせ我慢してマスクの中に吐いちゃダメよ?」

「ううっ、すみません・・・。でも大丈夫です!私ちゃんと訓練しましたから!」

「そう?なら良いんだけどね。シミュレーターでも使ったの?」

「シミュレーターも使いましたけど、学校に行くバスで英語の辞書を読んだりしてます!」

「プッ、何よそれ」

のっぺらぼう顔のまま胸を張る舞衣を見て、冬華はインナーマスクの下で思わず吹きだしてしまった。

「効果抜群なんですよ?ほんとです!」

食い下がる舞衣だったが、

「分かった分かった。ほら、発艦のカウント近いわよ」

そんなやり取りをしながらもシークエンスを忘れていない冬華に遮られ我に返る。

「失礼しました。コントロールよりカウントダウン、あと10です。」

「了解。さあ、行くわよ」

「はい!」

やがてカウントダウンが開始され、冬華が管制側にリンクしてるウインドウに向かい
右手を挙げてサムズアップしてからその掌を軽く振り下ろす。
その様を後ろから見る舞衣は緊張感の中にも心強さを感じながら
発進とともにやってくるGに身体を委ねていった。






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