「1.5話 ある日の訓練」



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吹田宇宙港の地下にあるアームドパトロール西日本本部。
広大な貨物ターミナルの敷地内にマスドライバーのカタパルトが突出しているのが特徴的だが、ほとんどの施設は地下に潜っている。

スタスタスタという凛とした足音、そしてタンタンタンという少し早足気味な足音がその廊下に響く。
すれ違えば誰もが振り返りそうな女子高校生とまだあどけなさを残した女子中学生の二人組だ。
窓の外では本部からやや離れた鳥飼側にある着陸場に到着したシャトルを回送していく配給列車が通過していく。
レール二線に跨がる大柄な専用貨車を電気機関車が二両がかりで牽引していて、
結構な轟音をたてながら二人の横を通っていったが彼女達は特に驚いたりする様子もない。

「舞衣、週末はどこに行こっか?今度の休みはあんたに任せるわ」

エレベーターに乗り込みながら、高校生の方が問う。

「本当ですか!?ありがとうございます〜。そうですね…こんなお店はどうですか?」

小柄な中学生も遅れず続きながら、スマートフォンを取り出した。


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「なになに…ペンギンカフェ!?すっごくかわいいじゃない!!ここにしましょ!」
「先輩、今までに見たことないテンションです…」

エレベーターで地下に降りた二人は廊下の端にある物々しい扉の隣に据え付けられたカードリーダーにICカードをかざしてその向こうへ入っていく。これから彼女たちの放課後が始まるのだ。

「ところでさ舞衣、危険物漏洩対策訓練は参加したの?」
「あ、すっかり忘れてました…報告書の提出って明日まででしたっけ?」

舞衣と呼ばれる少女は機動兵器搭乗者に義務付けられている訓練の参加を忘れていたようだ。

「先輩、確か取扱者の資格持ってましたよね…これから指導員をお願いしてもいいですか?」
「いいわよ。着替えたら多目的室でいいかしら?」
「はい!よろしくお願いします!」

二人が行う訓練というのは有毒なガスが機体や貯蔵タンクから漏れた際に安全に避難するためのものである。
年に1回以上訓練に参加し指導員による報告書を提出しなければならない。
先輩こと山咲冬華は提出済みだが、舞衣は訓練に参加しそびれていたという訳だ。
そこで舞衣はガスの取扱資格を持ち、訓練の報告書にサインと捺印が可能な冬華に手伝いをお願いした訳だ。
説明が長い?気にするな!

程なくして二人は多目的室と呼ばれる訓練等に使われる部屋にいた。
部屋の鍵をロックでき、室内でガスの扱いも出来るのだ。
二人の前には大人の身長ほどあるタンクと机、そして机の上には青色のフィルタ付防毒マスクが2つ置かれていた。

「舞衣は訓練初めてだったっけ?」
「あ、は、はい!初めてです!」
「じゃ、説明するわね。最初にこのマスクを着けてもらうわ。装着したら顔にしっかりフィットしてるかチェックすること。
方法はこのタンクの中の訓練用のガスを出すから臭いがしなければOK。簡単でしょ?」

冬華はタンクをポンポンと気軽に叩く。

「意外と簡単なんですね〜!もう着けてもいいですか?」

舞衣は早速マスクに手に取り着けてみる。

「前髪が中に入らないようにするのがポイントよ」

冬華も顔を上に向けマスクを顔にそっと当てると位置を決め、左右と上のベルトを締めてキュッと着ける。正面を向くと青のインナーマスクで鼻と口を覆われた冬華が現れる。

「こんな感じでどうですか?」
舞衣もわたわたとしていたが何とか装着できたようだ。 冬華はぐるっと見渡すとサムズアップをする。
「うん、いい感じね!最初にしては上出来よ」


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「えへへ〜。このマスク、ペンギンみたいですよね〜♪」
舞衣はマスクのフィルター部を撫でるように触り笑顔を見せる。

「そうかしら?…でも、あんたのそういう発想って嫌いじゃないわよ」

二人は何度かマスクを着けては外しを繰り返す。何度目かを終えると…

「それじゃ、ガスを出してみるわね」

冬華がタンクのバルブを緩めるとシューと言う音ともにガスが部屋に充満する。すると舞衣が目を白黒させて異変を訴える。

「せ、先輩!何か変な臭いが……!!」
「えっ!?」

訓練用のガスは無害なのだが、訓練の為にプロパンガスのような臭いがつけられているのだ。

(もしかして装着が甘くてガスが入り込んでる!?)

冬華はバルブを締めて急いで換気扇をつけるが…

「先輩、この臭い、私、ダメです…オ"ッ……」

舞衣がマスクの口元に手を当てると戻しそうな仕草を見せる。

「舞衣!マスクの中で吐いちゃだめ!早く外して!!」

冬華がマスク越しのくぐもった声で叫ぶが間に合わない…!


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「オブッ…ゴボッ……ゲェッ…ゲェッ……!!」

うつむいた舞衣はそのままマスクの中で戻してしまう。ボトボトという音とともにバルブから液体がこぼれて床に落ちる。

「ゴブッ…ヒュー……オゴッ」

床にぺたんと座り込んでしまった舞衣は辛うじて息をしているが放心状態となっている。

「もうっ!」

冬華が舞衣のマスクを外すとインナーマスクの中に溜まっていたものが音を立てて落ちる。そして舞衣の顔にはインナーマスクの形で戻したものが付着して目は虚ろとなっていた。
冬華はマスクのガラス面に手を当てあちゃーという面持ちを隠しきれない。

その後、ふたりで仲良く片付けをして冬華の優しさもあって訓練の報告書は無事提出されましたとさ。
めでたしめでたし…なのか?



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あとがき(ssns)
今回投稿させて頂いたのは、昨年秋におがわさん(@dc85_tk)より頂いたSSにssnsが挿絵を描いたものであります。
本文もssnsがちょこちょこいじらせてもらってますが、ほぼおがわさんの手によるものであります。
私のオリキャラを非常に生き生きと良く活かして頂いて深く感謝申し上げる次第です。
また作品を頂いてから挿絵を完成させて投稿するまで実に半年かけてしまった事を反省しております。

オリジナル本編の世界観に準じたものとして1.5話とさせて頂いております。
2話もまたそのうちに描きたいなあと思いつつ、ではでは!





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