「特別攻撃機の搭乗員達の最期」

「(コフッ)072、僚機の残存数を報告せよ」
「(スフッ)味方はもう居ません。私達だけです(フー)」

特攻兵069は狭いコクピットでくぐもった溜息をついた。
雲の切れ目から覗く洋上に、敵機動部隊が見える。
しかし、それまでに敵艦載機の迎撃に遭った彼女達の部隊は壊滅的打撃を受けていた。

「我々だけが(コフッ)敵艦隊への突入を果たせたわ」
「(フー)はい。せん…069」

後席の072が口を滑らせたのを聞き、069は眉をひそめる。
薬の効き目が無くなってきている。
グローブに包まれた左手を操縦桿から離し、ヘルメットから伸びたチューブをまさぐる。

「吸引せよ」
「了解、(スフー)。吸引します」

恐怖心とともに感情を消し去り、戦闘兵器の一部と化すための投薬。
瞬時に強烈な快楽が訪れ、戦意が高揚させられる。

「(コフッ、コフッ)見エタゾ!敵空母!!沈メル、沈メルゾ(ホー、ホー)」
「(ハアッ、スフッ)照準!照準!(フー)照準ヨシ!」
「(コフッ)万歳!」
「万歳!(フー)」



文字通りとち狂ったように戦闘狂と化した二人は、
何かにとりつかれたように特攻のシークエンスに入った。
072が定めた照準を頼りに、069はトリガーを引く。
攻撃機の下部にマウントされた大出力のビーム砲が火を吹いた。
しかしその大火力は、彼女達の機体の自爆と引き換えに得られるものだった。
コクピットが一瞬にして炎に包まれる。
そして、機体の下部から突き上げるように爆発が起こった。

069と072は自分達の身体が灼かれていくのを感じながら、互いの名前を呼ぼうとした。
「(ゴフッ)、ま"…い"!!!」
「(ゴフッ)ぜん"ぱい"!アッ"、」
1 2
だがマスクから吹き込んだ高熱が彼女達の喉を焼き、蛙を潰したような呻きが漏れただけだった。
そして二人は炎に包まれてもがきながら炭化していき、粉々に消し飛んだ。

彼女達が命と引き換えに放った一撃は射撃中に姿勢が崩れたため目標の空母を逸れ、至近弾となっただけだった。
特別攻撃機SAC-G2型、後にサクリファイス・ガールズと揶揄された機体。
その戦績は搭乗者の多くの犠牲に対してお世辞にも見合ったものではなかったという。


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