「特別攻撃機の搭乗員達の最期 side072」

「(ハアッ、スフー)照準!照準!(フー)照準ヨシ!」

荒い息を吐きながらモニターに表示された敵空母に狙いを定める。
前席の069が狂ったように「万歳!」と叫ぶのを聞くと072は股間から熱いものが吹き出すのを感じながら「万歳!」と呼吸音まみれの叫びをあげた。
そして機体からビームが放たれる。

射撃に数秒遅れて、足元から閃光が沸き上がった。
それは凄まじい熱を伴い、072の身体を包み込む。
バイザーにヒビが入り、手足が、そして全身が灼けていく。本能的に恐怖を感じて身体を縮こめる。
激しい痛みを感じたが、それは一瞬だけだった。

前に居た069の髪が激しくなびいたかと思うと、その四肢が膨れ上がるように散り散りになっていき、消し飛んでいく。

(せんぱいが…消えちゃう…)

そう思った時

「ま"…い"…!!!」

と069の最期の声が聞こえた。072は必死に応えようとしたが、

「ぜん"ぱい"…」

というひしゃげたような声しか出なかった。
その呻くような声と同時に視界に赤いものが吹き散らかされた。
マスクから伸びたホースが千切れ、そこから吐き出した血が飛び散ったのだ。
全身を覆い守っていたはずのスーツは高熱で気泡まみれになり、そしてそれを身につけていた身体ごと焼き消していく。

光の渦に呑まれ自分の手足が消し飛んでいく様は、072にはスローモーションを見ているように感じられた。

(一瞬だって聞いたのに…こんなにじわじわ焼かれるなんて、やだ!やだよう!)

左手首の唯一携行を許されたネコのストラップが溶け消えていく。

(ああっ、ねこさん…!)

それを見た次の瞬間ヘルメットが割れ、吹き込んだ熱線で彼女の眼球は沸騰し頭部の一切合切が炎と血を吹き上げる。
手足が消し飛んで達磨のようになりながらも、背中のタンクがシートに癒着したためその身体は機体に縛り付けられたままだった。
1 2 3
そして一際大きい爆発が残っていた彼女達だったもの共々消し飛ばしていく。

「にゃあ。」

全てが消えてなくなる刹那に、猫の声を聞いた気がした。
その日の朝に出会った猫の事を思い出す。
特攻兵としての出撃が決まり、戸籍氏名を返上した朝だった。

(ごめん…ね…飼って、あげ、られ)

ずっと自分の後を付いてくる猫にそう言って聞かせたのを思い出しながら、少女は散った。


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